主催者からのメッセージ
ゲームAIの奥深さと楽しさを知って頂く為に
みなさんが普段遊んでいるゲームソフトの中で生き生きと動いているキャラクター達は、その多くがAI(人工知能)の技術で制御されています。ゲームはエンターテインメント向けの商品ですが、その中で使用されるソフトウェア技術は年々高度になってきており、ゲームAIの技術もこの10年で急速に進化と発展を遂げ、大変奥深い領域になってきております。ゲームをプレイしながら「この動きの良いキャラクターは一体どのように制御しているのだろう?」と興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ゲームAIは、元々はただのデータであるはずのゲームキャラクター達に環境認識や知性の仕組みを与え、擬似的に命を吹き込む為の技術です。キャラクター達がまるで自我をもったかのように動きだし、制作した自分たちの予想も超えた行動をとり始めた瞬間、それは私たち開発者にとっては何物にも代え難い、胸躍る至福の体験となります。
ですが、このゲームAIの奥深さや面白さは一般の方々はほとんどご存知ありません。それが私たちは「とても勿体ない」と思っています。
こんなにも面白い世界がある事をほとんどの方々が知らないことが残念で仕方がないのです。
そこで、私たちは今回「スクウェア・エニックス AIアカデミー」という全5回の無料連続講座を通じて、普段なかなか知る機会の少ないゲームAIの技術について学生の皆様にじっくりと学んで頂ける機会をご用意致しました。
このアカデミーでは、各回、ゲームAIの広大な領域から厳選された粒揃いのテーマについて、一歩一歩基礎からステップを踏んで解説が行われます。その理解の為に、講義と合わせて簡単な演習も行い、このゲームAIという分野の可能性に満ちた輝きと広がりを共に体感して頂きたいと考えております。
ゲーム開発技術はゲームのみならず、広く社会に役に立つ多様な応用の可能性を持っています。ゲーム開発技術の深い森は、それを体験するものに新しい驚きと見方を与えてくれるでしょう。皆様のお越しをお待ちしております。
株式会社スクウェア・エニックス
テクノロジー推進部
リードAIリサーチャー 三宅陽一郎
この10年で急速に進化と発展を遂げた「ゲームAI」分野を取り上げます。人工知能は心理学や生物学などさまざまな学問につながる分野であり、いろいろな形でご興味をもたれる方も多いかと思います。その中でも、ゲームとゲームキャラクターの持つ人工知能についてご興味をお持ちの方に、その仕組みをひとつひとつ段階を踏んで丁寧に解説して行きたいと思います。
また講義の後には、講義内容を体験として理解できるワークショップもご用意しております。プログラミングや専門的知識の前提はございませんが、勇気と情熱をもってこの分野に飛び込んでみたいという方を募集いたします。
よろしくお願いいたします。
ゲームAIは全体像を把握するのが難しい分野のひとつで、認知科学や心理学など、他の分野との連携しつつ大きな広がりを持っています。第1回では、ゲームAIの全体像を、基礎的な概念を組み合わせて解説して行きたいと思います。「キャラクターAI」「メタAI」「ナビゲーションAI」の3つがゲームAIの基礎となります。
ワークショップでは、実際にボードゲームを使って、この3つのAIが果たす役割を体験して頂きます。
また全5回の解説のロードマップをお見せすることで、この分野を歩いて行く地図をご説明したいと思います。
ゲーム開発の歴史の中で、ゲーム内のキャラクターは「制御されるキャラクター」から「自分で考える自律型キャラクター」に変化してきました。そしてキャラクターの持つ知能の作り方は次第に7つの「型」に収束して行きました。「ルール型」「ステート型」「ビヘイビア型」「タスク型」「ゴール型」「ユーティリティ型」「シミュレーション型」です。
今回はこの意思決定の基本型を説明することで、意思決定の本質に迫ります。また環境とAIの一般的な関係性を構築する「エージェント・アーキテクチャ」についても解説します。「考える」とは何かを考える、そんな知能の素敵さをお見せいたします。
ゲーム空間でキャラクターを動かすためには、環境空間を認識するAIが必要とされます。そのために、地形やオブジェクトの中に認識のヒントとなる情報を埋め込む「知識表現」技術があり、さらにそれがゲーム特有に発展した大きな技術領域があります。「環境認識」「パス検索」「意思決定」「アニメーション」と繋がる一連の技術連携の中には、キャラクターをゲーム世界で運動させる本質が含まれています。
第3回では多岐に渡る応用例を示しながら、生物の持つ「運動」能力の驚異を感じる回にしたいと思います。
AI同士のコミュニケーションや社会性について解説します。知性は個としての知能だけではなく、社会的なコミュニケーションの中にも現れます。戦闘するAIや作戦を考えるAIを作るよりも、周囲と協調しながら社会的に日常生活を営むAIを作ることは、一般にはとても難しくなります。というのも、物事が単純化されている戦場よりも、大小問わず複雑な事物、関係性に直面している日常生活の方が、より混沌とした状況であるからです。例えば、皆さんもスポーツをプレイしている間はスポーツのことだけ考えればいいのですが、終わった途端、複雑な日常が待っています。
ソーシャル・グラフ、性格付け、内面の心理シミュレーション、コミュニケーションなど、より社会的な存在としてAIを形成する技術をご紹介いたします。これは、これからの時代における新しい形のAIです。
これまで商業ゲームでは、キャラクターがゲーム内で「学習」することはゲームデザインや技術上の制約で数えるほどの事例しかありませんでした。しかし次世代ゲームデザインにおいて「学習」はひとつのブレイクスルーとなる可能性があります。キャラクターが学習して行く過程を見せることができれば、ゲーム内で本当に「生きている」人工知能をユーザーに会わせることができるからです。
第5回では、これまでの事例を解説しつつ、キャラクターの学習がユーザーにどのように新しい体験を与えるかについて解説いたします。
また最後に、実際の開発の現場で今、どのような技術が研究・開発されているかについて、スクウェア・エニックス社内のAI研究事例をご紹介いたします。人工知能に命を吹き込もうとしている開発者の息吹を感じて頂ければと思います。